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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)10300号 判決 1970年6月30日

原告 八千代信用金庫

右代表者代表理事 新納太郎

右訴訟代理人弁護士 中島武雄

被告 株式会社大阪屋

右代表者代表取締役 磯野栄子

右訴訟代理人弁護士 南部健

主文

1  被告は原告に対し金一六六、一三二円および二五九、四六三円に対する昭和四二年四月一一日から昭和四三年一月二六日までの日歩六銭の割合による金員と一六六、一三二円に対する昭和四三年一月二七日からその支払いずみに至るまでの日歩六銭の割合による金員との支払をせよ。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原被告の平分負担とする。

4  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一  請求の趣旨とこれに対する答弁

(一)  原告の求める裁判

1  被告は原告に対し四二〇、一三二円(一六六、一三二円と二五四、〇〇〇円との合算額)及び内金二五九、四六三円に対し昭和四二年四月一一日から昭和四三年一月二六日まで、内金一六六、一三二円に対し昭和四三年一月二七日から支払済みまで、内金二五四、〇〇〇円に対し昭和四二年四月一一日から支払いずみに至るまで、いずれも日歩六銭の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

(二)  被告の求める裁判

1  請求棄却および訴訟費用を原告負担とする判決

二  請求の原因

1  訴外磯野靖一郎は被告の肩書住所で古くから大阪屋という商号で精肉等販売の営業を営んでいたものであるが、右営業中同人は原告に対し、2に記載する債務を負担した。

2  原告は右磯野の依頼により、昭和四一年五月七日同人が裏書した別紙目録(一)の手形(甲第一号証、金額二七四、〇〇〇円)をその後同年六月一八日同人が裏書した同目録(二)の手形(甲第二号証、金額二五四、〇〇〇円)を、万一右手形が不渡りとなった場合にはその手形金額およびこれに対し満期後日歩六銭の割合の遅延損害金を支払うという特約のもとに、各割引いた。そして原告が右各手形をその満期に呈示したところ、いずれも不渡りとなった。したがって、右磯野は原告に対し、次の債務を負うことになった。

(1)(一)の約束手形の手形金額二七四、〇〇〇円およびこれに対する手形を呈示した日の翌日から支払いずみまで日歩六銭の割合による遅延損害金

(2)(二)の約束手形の手形金額二五四、〇〇〇円およびこれに対する手形呈示の日の翌日である四一年八月二九日から支払いずみまで日歩六銭の割合による遅延損害金

3  磯野はその後、別紙目録(一)の手形につき、昭和四二年四月一〇日同日までの利息相当額及び元本内入れとして金一四、五三七円を弁済し、さらに昭和四三年一月二六日残元本(二五四、九六三円)に対し金九三、三三一円を弁済したので、原告が同人に対して有する債権額は請求の趣旨記載のとおりとなった。

4  磯野の右債務は同人の営業によって生じた債務であり、被告は同人の妻が昭和四一年六月一三日に設立した株式会社である。そして同会社は、以下に示す点からして磯野から営業の譲渡をうけ、その商号を続用しているものであるから、被告は磯野の上記債務につき、支払の責任がある。

(イ)  磯野の商号は大阪屋であるところ、被告の商号は「株式会社大阪屋」であり、旧商号に株式会社を冠したものにすぎないこと

(ロ)  被告が設立されたのは、磯野が営業不振によって倒産して営業を放棄した直後であること

(ハ)  被告会社の代表取締役は創立当初から現在に至るまで右磯野靖一郎の妻磯野栄子であること

(ニ)  被告は磯野が営業していた店舗で同一の営業を継続して現在に及んでいること

(ホ)  磯野も被告の営業に協力して働いていること

三  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、2の事実は知らない。原告主張の磯野の債務が同人の営業によって生じたことは否認する。すなわち磯野は原告主張の約束手形の振出人である加藤和治から金融依頼を受け、磯野名義で原告から金を借りたのに過ぎない。

2  営業譲渡は争う。磯野は、妻栄子と不仲となり夫婦別れをしたため店を棄てて別居したのである。商号も譲り受けたものではなく、磯野が放棄した屋号を新会社の商号としたのに過ぎない。

三  証拠関係≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫を総合すると、請求原因1ないし3の各事実を認めることができる。

二、次に商号続用による営業譲渡の点につき考える

被告は磯野靖一郎が精肉販売の営業を止めた後同人の妻栄子が昭和四一年六月一三日に設立した会社で、同女が同会社の創立以来の代表取締役であること、同会社の商号が「株式会社大阪屋」であり、創立以来磯野靖一郎が営業していた店舗で同じ営業を営んで現在に至っていることは被告が明らかに争わないところである。

さらに、≪証拠省略≫を総合すると、磯野は、昭和四一年五月末頃ないし六月上旬頃経営が行きづまって倒産し、自己の前記店舗を閉店したが、その後一週間位の後に被告会社が設立され、設立と同時に従前の店舗で開店したこと磯野は被告会社設立の頃から別居を初めた模様であるが、その後、昭和四二年五月一二日豊島区長に転出届を出し、現在は練馬区旭町に居住しているが、被告会社が設立された後も細かい打合わせや仕事の引継ぎのため被告の店舗に出入りしていたこと、また同年一二月ごろ原告の社員内田均と鶴岡某の両名が前認定の債権を取立てるために被告の店舗に赴いた際には、磯野は被告の店舗で栄子とともに働いており、その際磯野から一日三〇〇円の日がけで弁済する旨の約定をとりつけたこと、磯野の店舗は被告会社になって後も少くとも外見は、変らないこと、店の設備としても、旧い冷蔵庫を新品に交換したことのほかは同じであること、等の事実が認められる。

以上の認定事実と前記争いのない事実とを総合すれば、被告は商法二六条にいう営業の譲受人にあたるものと認めるのを相当とする。そしてその営業譲渡のなされた日付は被告が設立された昭和四一年六月一三日頃と認められる。また、被告は、株式会社大阪屋という商号で磯野の商号は大阪屋であることは前記のとおりであり、株式会社という文言の有無が多少問題視されるが、この程度の差異は、前記のような態様において営業譲渡が認定される場合には、その立法趣旨に照らして、商法二六条一項にいう「営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合」にあたるものと解するのを相当とする。

四  むすび

以上の認定説示によれば、被告は営業の譲渡人である磯野がその営業譲渡前に旧営業に関して原告に対して負担した債務を支払うべき義務があるものというべきである。しかるところ前記(二)の約束手形は前示のように昭和四一年六月一八日に原告に割引いて貰ったもので、この日時は前認定の営業譲渡の後に当るので、これによって生じた債務に関する原告の本訴請求は理由がない。よって、原告の本訴請求中(一)の手形に関する部分のみを認容し、民訴法第九二条第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東秀郎)

<以下省略>

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